ペットフード業界のUGC動画活用はなぜ今、注目されるのか
「広告費を増やしているのに、エンゲージメントが一向に上がらない」「きれいに作り込んだ動画広告が、なぜかユーザーにスルーされてしまう」——ペットフードブランドを担当するマーケターや事業主であれば、こうした悩みを一度は抱えたことがあるのではないでしょうか。
実際、SNS広告の飽和化は深刻です。TikTokやInstagramのフィードには1日あたり数百本の広告動画が流れ込み、ユーザーの広告スキップ速度はわずか1〜2秒まで短縮されています。一方で、ごく普通のペットオーナーが自宅のスマートフォンで撮影した「うちのわんこがご飯に喜ぶ様子」の動画は、何百万回もの再生を記録する。この逆転現象こそが、UGC動画(ユーザー生成コンテンツの動画版)が現在最も注目されているマーケティング施策である理由です。
本記事では、実際のペットフードブランドがUGC動画戦略によってエンゲージメントを3倍に引き上げた具体的な事例を軸に、戦略の設計から実装・効果測定まで、再現性の高い手順を詳しく解説します。広告担当者・マーケター・D2Cブランドの事業主の方が、明日から使える知識を持ち帰れるよう構成していますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
ペットフード市場の現状とUGC動画が必要な背景

急成長するペット関連市場とデジタル消費の変化
日本のペット関連市場規模は2023年時点で1兆6,000億円を突破し、特にD2Cペットフードブランドの成長率は年率30〜40%と驚異的なペースで拡大しています。在宅勤務の定着によるペット飼育世帯の増加、SNSのペット動画バイラル現象、そして20〜40代女性(全体購買層の約72%)を中心とした高関心度のユーザー層の存在が、この成長を後押ししています。
しかし、市場の拡大と比例して競合も激化しています。主要なSNSプラットフォームでは企業の広告出稿量が急増し、企業公式動画のエンゲージメント率は平均1〜3%に低迷するようになりました。これに対してUGC動画(一般ユーザーが撮影した動画)のエンゲージメント率は4〜12%と最大4倍以上の差があります。消費者の目が肥え、「広告っぽいもの」を無意識に排除する行動パターンが定着しているのです。
消費者がUGCを信頼する心理的背景
2024年のソーシャルメディア消費者調査によると、65%のユーザーが「一般ユーザーの投稿は企業広告より信頼できる」と回答しています。ペット関連コンテンツに絞ると、この傾向はさらに顕著になります。
| 信頼度指標 | UGC動画 | 企業公式動画 | インフルエンサー投稿 |
|---|---|---|---|
| 非常に信頼できる | 68% | 22% | 45% |
| 購買意欲が高まる | 71% | 31% | 52% |
| SNSでシェアしたい | 58% | 15% | 44% |
| 実際に購買した | 47% | 18% | 36% |
この背景にあるのは「認証性(Authenticity)」と「共感」という二つの心理です。ペットオーナーは「本当に効くのか」「うちの子と似た環境で使われているか」を最重視しており、プロのカメラマンが撮影したきれいな映像より、リビングの床に座って撮影したやや手ブレのある動画のほうが、はるかに購買判断の後押しになるのです。
実事例:ペットフードブランド「FreshPaw」のUGC戦略全貌
ブランドの初期状態と課題設定
無添加・国産素材にこだわるD2Cペットフードブランド「FreshPaw」は、2023年4月時点でInstagramフォロワー15万人、TikTokフォロワー8万人という中堅規模のアカウントを持ちながら、エンゲージメント率の伸び悩みに直面していました。
キャンペーン開始前の数値:
- Instagram エンゲージメント率:1.8%
- TikTok エンゲージメント率:2.3%
- Webサイトへのクリック率:0.65%
- 月間新規購買者数:約280人
- 月間広告予算:250万円
- ROAS(広告費用対効果):1.8倍
マーケティング責任者の言葉が、当時の状況を端的に表しています。「完璧な照明、プロの編集、統一されたブランドカラー。制作費をかけて理想的な動画を作るたびに、逆に『広告感』が強くなっていった。動画冒頭の5秒で離脱するユーザーが全体の72%に達していて、何かが根本的に間違っていると感じた」。
9ヶ月間のUGC戦略:3フェーズの実装
FreshPawが実施したUGCキャンペーンは、大きく「収集フェーズ」「活用フェーズ」「拡張フェーズ」の3段階に分けて設計されました。
フェーズ1(1〜3ヶ月目):UGCコンテンツの大量調達と審査体制の構築
まず行ったのは、ハッシュタグキャンペーンの立ち上げです。「#FreshPawのわんこ」「#うちの子FreshPaw生活」という参加型ハッシュタグを設計し、応募者にAmazonギフト券1,000円を提供しました。初月だけで800件の動画投稿が集まり、中には10万回以上の自然再生を記録した動画も複数登場しました。
並行して、フォロワー数1,000〜5万人規模のマイクロインフルエンサー100名と月額3,000〜1万円程度の低予算契約を締結。「企業とのコラボ表記はするが、撮影・編集スタイルは普段通りで良い」という自由度を与えたことで、素人感を残した高質なUGCが量産されるようになりました。
収集した動画は社内で「A(そのまま広告転用可)」「B(字幕・BGM追加で転用可)」「C(参考資料として保存)」の3段階で審査し、毎月40〜60本のAB素材をストックする体制を整えました。
フェーズ2(4〜6ヶ月目):SNS広告への組み込みとA/Bテスト
調達したUGC動画を、従来の企業制作動画と並行して広告配信し、徹底的なA/Bテストを実施しました。同一ターゲット・同一予算・同一配信期間で比較した結果、以下のデータが得られました。
- CTR(クリック率):企業動画0.7% vs UGC動画1.6%(約2.3倍)
- CPV(視聴単価):企業動画12円 vs UGC動画6.8円(約43%削減)
- コンバージョン率:企業動画1.2% vs UGC動画2.8%(約2.3倍)
特に効果が高かったのは、「犬が初めてFreshPawを食べた瞬間の反応動画」というフォーマットで、TikTokでの平均視聴完了率が68%に達しました(業界平均は35〜40%)。
フェーズ3(7〜9ヶ月目):コミュニティ化とLTV向上施策
単なる広告素材の調達から一歩進め、公式LINEを活用したUGC投稿者コミュニティを立ち上げました。毎週火曜に新商品の先行情報や「バズりやすい撮影のコツ」を共有することで、投稿の質と頻度が向上。コミュニティ参加者の購買継続率は非参加者比で1.8倍という結果が出ました。
UGC調達コストを最小化しながら質を上げるコツ
UGCは「無料で集まるもの」と思われがちですが、質の高い動画を継続的に集めるには小さなインセンティブ設計が重要です。Amazonギフト券よりも「次回購入50%オフクーポン」の方が、購買ユーザーからの応募率が1.4倍高い傾向があります。また、応募フォームに「愛犬の名前」「使用感」の記入欄を設けると、そのまま動画のキャプション素材としても活用でき、一石二鳥の効果が得られます。採用されなかった動画に対しても「参加ありがとうポイント」を付与することで、離脱率を大幅に下げることができます。
9ヶ月後の成果:数値で見るエンゲージメント3倍の実態

KPI全体の変化と解釈
キャンペーン開始から9ヶ月が経過した2023年12月末時点での数値は、以下のとおりです。
| KPI | キャンペーン前 | キャンペーン後 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| Instagramエンゲージメント率 | 1.8% | 5.6% | +211% |
| TikTokエンゲージメント率 | 2.3% | 7.1% | +209% |
| Webサイトクリック率 | 0.65% | 1.81% | +178% |
| 月間新規購買者数 | 280人 | 847人 | +202% |
| ROAS | 1.8倍 | 4.3倍 | +139% |
| 顧客生涯価値(LTV) | 18,000円 | 26,500円 | +47% |
エンゲージメント率は平均で約3倍(一部指標では3.1倍)という結果になり、同時に広告効率・収益性も大幅に改善しました。特筆すべきは、広告予算を増やさずにROASが2.4倍以上に跳ね上がった点で、UGC活用が「コスト効率型のグロース戦略」として機能することが実証されました。
成功の鍵となった3つの要因
①「完璧さ」を捨てる意思決定
経営・マーケティング双方の合意のもと、「ブランドイメージを守る」という名目での過剰な品質管理をやめ、多少粗削りでも「本物感」を優先する方針を徹底しました。この意思決定なしに、UGCの効果は半減していたと担当者は振り返っています。
②マイクロインフルエンサーの選定基準の厳密化
フォロワー数よりも「コメント欄の熱量」を重視し、過去投稿のコメント数/いいね数比率が3%以上のアカウントのみを選定。結果として、費用対効果は大手インフルエンサー起用の約3.5倍に達しました。
③UGCの継続的な更新サイクル
同じ素材を使い続けると「広告疲れ」が生じるため、毎週最低5本の新UGC素材をローテーション投入するルールを設定。これにより、広告フリークエンシーが上昇しても視聴完了率の低下を防ぐことができました。
あなたのブランドでUGC動画を実装するステップ
STEP1:UGC調達の仕組みを設計する(0〜4週目)
まず取り組むべきは、継続的にUGCが集まる「仕組み」の構築です。一時的なキャンペーンではなく、ブランドのマーケティング活動の一部としてUGC収集を組み込む発想が重要です。
具体的には以下の順序で進めましょう:
- . ブランド専用ハッシュタグを2〜3個設計する(使いやすさ・検索性・ブランド連想を考慮)
- . 投稿インセンティブを設定する(クーポン・商品プレゼント・コミュニティ参加権など)
- . 投稿ガイドラインを作成する(撮影のコツ、推奨する構図・内容、禁止事項